大人になったら(2020年現場振り返り③)

 

ミュージカルVIOLET

演出:藤田俊太郎 脚本:ブライアン・クロウリー
制作:梅田芸術劇場
東京芸術劇場 プレイハウス
舞台の映像が残ることが当たり前じゃないことは分かってるけど、それにしたってたったの5公演。舞台上にあるものすべて忘れたくなくて、そういう集中力のようなものが客席全体にあった。一場面一場面きちんと目に焼き付けたいのに、回る円盤の上に乗った俳優の角度も光の当たり方も影の落ち方も次々と変わってすべて美しくて困った。陰翳礼讃……。
どこをとっても誠実な作品だったと思います。登場人物みんな物語のための唐突さみたいなものがなくて、絶対的に正しい人もいない。愛情深い父親は生前ヴァイオレットを救うことはできなかったし、絶対に叶わない夢はきらきら輝いている。誠実さを覚えはじめたモンティは寂しい気持ちを抱えたままきっと戦地で死ぬ。観客はヴァイオレットの傷が治らないことを分かっているけど、でも治したい気持ちは痛いほど分かるから辛かった。それでいてきちんと飛躍なく地続きに希望を見せたのはさすがでした。ヴァイオレットの傷は治らなかったけど、フォートスミスで再開したときのフリックの台詞「バスから降りてきたときのおまえの姿、おまえ自身に見せてやりたいくらいだった」はまったくきれいごとではなく真実だった。冒頭のヤングヴァイオレットが澄んだ声で歌う「ママ、彼の目は何を見てるの?」、それから終盤に父親が問いかける「お前を愛してくれる人はいるか?」このふたつの答えはきちんと出る。観る前から心配があるとすれば私にどう響くかどうかで、そういう丁寧に作られた物語であることについては信頼していましたが。
わたしの価値観はそうとう偏ってはいるけど、それにしてもフリック、モンティの情緒が初見でまじでわからなくて。さっきまで馬鹿にしたり怒ってたりしたのに結局好きなの?!っていうのが……2回目3回目見てやっと説明つくようになった気はする。まずヴァイオレットがそこまでおかしい女だと思えなかった。どれだけ傷ついても「斧が致命傷だったらよかったのに」とは言わないところが人としてすごくえらいというか出来てるなと思ってしまう。だって見ている私だってある日突然何らかの事故で顔面に傷を負うかもしれない。そのときに素直に自分を愛してくれる人を探せるだなんて思えないし。自死を考えなかったのは宗教の問題もあるんだろうけど、それ以上に傷が治ったらって夢がきらきら光っていたからというのもあるんだろうな。「♪ほしいの、ほしいの、ほしいの」すごく楽しい曲なんだけど、最後に転調して歌うフレーズがすごく美しかった……。たしかに自分自身の人生を振り返ってみても、しんどいときほど叶うはずのない突拍子もない夢が耀いて見えて心の支えになってしまうのはすごくよく分かるな。
モンティはヴァイオレットに出会うことで徐々に変わっていってるから2回目以降はまだわかりやすかった気がする。「でもそのとき俺はそばにいないから」とか本当にひどいなとは思うんだけど、それでもフォートスミスでヴァイオレットを追いかけていったのは彼の中にいままでなかった情動が出てきたからだなって思うので。このバスを追いかけるシーン、それからメンフィスでの「俺のノートンちゃんはすごいんだぞ」からのシーンがすごい好きだった。
フォートスミスでの最後のシーン、モンティはヴァイオレットが泣いている理由をずっと取り違えているし、結局彼の口から思わずフリックの名前を呼んでしまったことで彼自身もヴァイオレットに必要なのは自分じゃないと悟ったんだなと思う。けどメンフィスで娼婦が歌っていた歌詞のとおり、彼にも寂しさはあったはずなのに。結局差別される側の気持ちがモンティには分からなかったってことなのか単に性格なのか……。物語における美しい男は一番ほしいものを手に入れられないものだと個人的に思ってるけど、それでもモンティのこれからのことを考えるとちょっと寂しくなってしまう。
一方フリックは最初からヴァイオレットの傷を大きな問題だとは思っていなくて、だからヴァイオレットが頬の傷のせいで傷つけられたことをあまりわかってなかったのかな。だから最初にヴァイオレットの夢を聞いたときにモンティは笑わなかったけどフリックは笑ったんだよね。この手の物語の結論は「外見ではなく中身を見る」だと勝手に思ってたから、急に傷に触れようとするフリックにはびっくりした。ラスト「ママ、彼の目は何を見てるの?」で彼はヴァイオレットの傷に触れたから、見た目も中身も見るということが答えだったんだと思う。
いやなんか、好きで心配してるから怒るのもわかるんだけどそれにしても明らかヴァイオレットより一回り以上年上の軍人が椅子倒しながらバチギレしてんの、普通に引いてしまうのでここは最後まで苦手なシーンだったな……。というかモンティだって共犯のはずなのにモンティには怒らなくてヴァイオレットにだけあんな怒りをぶつけるの、なんでなん。この物語に女性差別を感じるのは間違った見方なのかな……。(まあ俳優さんが燃えてたのが頭を過らなかったとは言えない。)♪歌えで圧倒的な歌声を聞かせていただいただけに、このシーンではその歌声の圧倒的なパワーが暴力的で怖かった。まあ登場人物が誰も完全な人格者じゃないところがこの作品のいいところなんですが。
ヴァイオレット役でダブルキャスト唯月ふうかさん。歌声もそうだけどずっとなんか妖精みたいなきれいな声で話す方ですよね。実際に唯月さんは役のようにみにくい少女ではないけど、それをひっくり返すくらいのエネルギーがさすがでした。立っているだけで物語の主人公という説得力がすごかった。
優河さん、声の温かい深さにうっとりした。第一声から印象的な歌声だけどそこからどんな曲でも歌えてしまうから聞いていて楽しかった。話す声が低いんだけど当たり前に聞き取りやすい。殻にこもった雰囲気があるんだけど、だからこそ精神的な幼さを見せたときのアンバランスさ?あやうさ?そこから出てくる引力がすごくて。この人の初舞台に出会えてよかったな。優河さんの千秋楽、座組としては中日にあんなにカーテンコールが盛り上がったのは彼女のすごさゆえだったと思います。コロナ禍にブラボー!が聞けるとは……。
経歴の違うふたりがダブルキャストだった意味をすごく感じました。お互いがお互いの刺激になって、より観客を引き込んでいったのが短い公演期間でもはっきりと分かって。優河さんのヴァイオレットって完全に未知だったから、唯月さんの初日を観たあと大丈夫かなって勝手に心配してたんですが、それがあんなに素晴らしくて、優河さんの出演が終わる頃には逆に唯月さんを心配するくらいだった。本当にどちらも違った魅力があって気づきもあって、文句なしでした。どちらのほうが良かったなんて言えないです。これ、もしも本来の公演数やってたらどうなっちゃってたんだろうなあ。
父親役のspiさん、2.5ではいろいろな作品で見ていたんですが、それでもspiさんのことたった数割くらいしか知れてなかったんだなって。こんなにすごい人だってわかってなかった。TAKE ME OUTを観た友人がspiさんのことを爆褒めしてた意味がやっとわかった。本当に良かった。はじめて見る表情がたくさんあって、ああこんな声出るんだ、こんな歌い方できるんだって発見ばかりで。「♪朝起こして、飯作った」この素朴で静かで存在感のある歌声がはっとするくらい美しかった。「父親に秘密くらい持ちなさい。」この台詞が大好きなんですが、5日マチネ、急に涙に声を詰まらせていてさすがに泣かされてしまった。こんなに深い愛情と厳しさを表現できる人だったんだ。素敵な役で出会えて本当に良かった。
みなさん歌が上手いのは当たり前なんですが、しっかり俳優さんそれぞれの歌声を聞かせる曲が随所にあって楽しかった。私に音楽的な素養がないのでうまいこと褒められないんですが、とにかく楽曲と歌声がよかった。頭に残って離れなくなる。
吉原さんの「歌え」、この曲は彼の母親のモノマネっぽい歌い方が入るのがいいですよね。遊び心があるしフリックがどう育ったのか想像させる。エリアンナさん、谷口ゆうなさんの会場を沸かせるパワフルな歌声もさすがでした。(12月にまた本多劇場でお会いできるとは思ってなかった……。)
あと夢の中で岡本さんが歌う「俺の代わりに」が本当に好きで。なんか今思えば実家でよく流れていた英語の音楽はカントリーだったと思うんですよね。苦しくなるくらいのノスタルジーと甘い歌声。「cock-a-doodle-ooo」と繰り返されるフレーズがまず頭に残るけど、この曲の歌詞は父親からヴァイオレットへの気持ちをそっくり歌ってるんですよね。最後のシーンの父親の歌と重なって二回目見たときはっとしたな。
そして最後になんですが、よこたくんがこの作品に出てくれて本当に良かった。ヴァージルや他の横田くんが演じた役たちみんなよこたくんである意味があった。舞台上でくるくると衣装を変えて、そのときそのときで役の年齢まで変わっていく。成人しているヴァージルや運転手、それからモンティにガキと称されるウエイター、それからヤングヴァイオレットの同級生まで、さすがのふり幅でした。よこたくんは成人している大人だけど、ずっとどこか子どものままの部分があるのがいいなあ。
一番最初のセリフが酷いことを言う役だったんですが、それが白人として特権階級で普通に生きてきた若者の未熟さなんだなって説得力がすごくて。登場人物それぞれが人生の苦難のなかでそれぞれのフィロソフィというか人としての芯を確立してきているのに対して、よこたくんの演じた役たちはどれも若くて綺麗で、当たり前に愛されてきたがゆえの軽薄さがあって。それが普通の人として生きている感じがよかったな。おたくは大袈裟なのです〜ぐよこたくんがスーパーで黒霧島買ってるだけで映画になるとか言っちゃうけど、実際はどんなに美しい人だってもっと普通に当たり前に生きているんだなあって。前髪がさらっさらなんですよ。ほぼノーセットだと思うんだけど動くたびにひらひら揺れる。軍人のモンティの髪が「靴ブラシみたい」って言われてたのと対照的。
舞台端で着替えてリボンタイにエプロンに小さいウエイターキャップのクラシックなウエイター姿で出てきたときはあまりにも似合うかわいい衣装だったのでちょう楽しくなっちゃったな。上で少し書いた「俺の代わりに」の曲中に出てくるウエイターがあまりにも美しくて。ずっと眠っていたいと思わせるノスタルジックな甘さと、夢だからどうしても覚めてしまう切なさ。「だっていまはバスに乗っていないもの」何か意味のある台詞なのかもしれないけど、如何にも夢らしくて。それを妖精みたいに見守る人たち。旅の初日の出来事を印象付けるようなシーン。冷たいような温かいような不思議な表情でふたりを見つめるウエイターがとにかく美しかった……。きちんと脚をそろえて座っているのが、ひどい言葉を吐いたことなんて嘘みたいで。生きてきたうえで身についてしまったものをすべて取り払ったような不思議な美しさがあって。夢の中の自我ってよくないと分かっているものに惹かれるみたいなことがよく起こると思うんですが、そういう魔力というか引力がすごかったな。夢のなかにだけ現れる、抗えないほど美しくてどこかそら恐ろしいもの。
それからぱっと場面を切り替える運転手さんの声すごい好きでした。畠中さん演じる運転手はぶっきらぼうだけど、メンフィスに着く前に運転手が交代して、若い運転手の声でメンフィスの夜が始まる。メンフィスでの特別な出来事を印象付ける。(いやまあ交代したのは伝道師役との兼合いなんですが。)見に来てくれた子が「運転手の衣装すごく好き」って言ってくれたからわかるって言ったら「こいつ横田くんの何褒めても同意しかしない」と言われました。そうです。あと制帽とかバス停についてる犬みたいな紋章かわいいなと思ってたけど実際のグレイハウントバスと同じなんですね。
それから当たり前のようにヤングヴァイオレット(子役)の同級生として登場するのでまじでビジュアルに乾杯してしまうんだけど、とにかくこの役の演技が良かった。何不自由なく生きてきた子ども特有のちょっと甘えたようなへらへら笑った「5ドル。半分こしてもいーよ」が本当に、強く生きざるを得なかったヴァイオレットと対照的で良くて。言葉遣いの幼さと不釣り合いにえげつないこと言ってて、でもそれがあくまでスプルースパインではふつうっぽいところがよかった。(炎ステのあと若手俳優とやばい役について身内で話してたんですが、体格のいい男にしか出せないやばさがある一方で見た目のかわいい花車な男の子にしか出せないやばさもあるよね。かわいいはさ、ずるいんよ。)
それから伝導師のアシスタントのヴァージルさん。足首くらいまであるむらさき色の聖歌隊服、好きだった。見に来てくださった友達にもあの衣装好きそうだよねと言われていた。制服みたいにみんながお揃いの服を着ることで際立ってくるものがあるじゃないですか。ヴァイオレットを追い出そうとしていたのに、顔を見たらはっとして「その傷、きっと治してもらえますよ」物語終盤においては普通に間違った反応になるんだよね。(そのあとの伝導師とは真逆のこと言っちゃってるしね。)初対面のヴァイオレットにあなたじゃ頼りないって言われちゃってるの微笑んでしまうんだけど、それに対しても相手にしてないリアクションで良かった。たくさん演じた役を通してみると美しい造形の下のリアルなずるさや欺瞞が本当によかったんだと思う。
どれも、みずみずしい美しさを持った俳優が演じる意味のある役たちでよかったと思う。他の誰でもないその俳優であることに意味のある作品に選んでいただけて本当にうれしかった。と同時にその人を美しいと思うのはなぜなのかを考えないでいるのはおたくとして不誠実なんだろうなとも思わされました。わたしは美しいと思うものを見ている瞬間の多幸感のために生きているし、観客であればそれを許されてきたとも思っているけど。さまざまな人種の登場人物を全員日本人のキャストで揃えなければいけないなかで、よこたくんの彫りの深い顔立ちや色素の薄さはキャスティングにある程度寄与したんだろうという邪推もできるので。美しいと思うことの根源とか基準とか、きちんと説明できるようにならないといけないんだろうなとは思います。美しい容姿を過度に礼賛するのはあまり褒められたことじゃないなというか。
あと最後は2.5おたくのどうでもいい雑感なんですが、才能がある俳優、子どものころから訓練をしてきた俳優しか出ていないような舞台って本当に文句なしにすごい。けどもっといろんな人、まだ何者でもないような俳優が出てる舞台だってそれはそれでしか出せない良さは絶対にあるなって思った。



MANKAI STAGE A3! Four Seasons Live 2020

演出:松崎史也 脚本:亀田真二郎 振付・ステージング:梅棒
有明ガーデンシアター
座長のおたくだから、エーステはずっと横田くん自身の物語と重ね合わせて見ているところが大いにあります。「座長という立場が怖くて」「僕のことはいいから、みんなのことを愛してあげてください」泣きながらそう言っていた春夏公演、「自分を好きになろう」って歌いながらまぶしいきらきらした笑顔で幕を下ろした春組単独公演、ずっといっしょだった夏組のみんなと一緒に最高の夏を作り上げた夏組単独公演。そういう、よこたくんとエーステの物語がここで終わりにならなくて本当に安心した……わたしはまだよこたくんとエーステの物語の続きを見たいです。
MANKAIカンパニーのなかで咲也くんが大切にされていることをたくさん感じてうれしかった。M2に入る前に咲也の手を引いてセンターに連れて行ってくれるシトロンとか、咲也の頭を撫でてあげる万里とか、号泣する咲也のなみだをぬぐってあげる天馬とか。そういう見ていてうれしい瞬間がたくさんありました。
陳内さん、本当に大好きなんですよね。春夏公演からずっといっしょで信頼しているしおたくが勝手に感謝することもたくさんあった。よこたくんのおたくにとってエーステがここまですばらしいの、もちろん本人やカンパニーの全員が頑張ってくれているからなんですけど、陳内さんが春夏リーダーズの片割れでいてくれたからこそ生まれた景色や言葉はたくさんあると思う。舞台の外の俳優同士の関係性なんて全部おたくの推測でおたくの慰めでおたくの願いでしかないけど、それでもその部分を発信してくれてありがたいです。本当にエーステで良かったなあ。
シャッフル稽古、推しがいないロミジュリはかなり寂しかったけど、見る前に心配してたわりにはなんだかんだ普通に楽しかったな。エーステ、劇中劇でさらにもうひとつ以上の役を見られるところがお得だなとは思っているので、新しい役を見られたことは普通にうれしかった。(正直役柄をファン投票にしたのが余計だった気がする。実際は衣装の問題もあっただろうし投票の比重は多くはなかっただろうけど、だったら最初から制作側が責任を持ってキャスティングしてほしかったかも。コロナ禍で色々考えた結果なのはわかるけど。)
天使を憐れむ歌、すごくすごく良かった。ゆうても秋冬公演は現地で何回も見たわけじゃないし正直誰が何エルかすらあまり覚えてなかったけどまあそれくらいだから楽しかった感はある。比べなくて済んだので。主演と副主演のラファエル・ミカエルが椋・十座とキャラクターとしても絆のあるふたりでキャスティングしてたのがうまいなって思った。野口くん、本人はしっかりピアスつけてる感じが逆にあざとくなくてなんか好きなんですよね。本当に椋くんになったときのピュアなオーラはどこから立ちのぼっているのか……。
ウリエル、まさに天使役の天使って感じで美しかったな。赤い髪赤い瞳に碧い衣装が映えて時祷書のラピスラズリだって思った。そういう高貴な色を纏っているのがたまらなく良い。よこたくんが演じてこそのウリエルでした。よこたくんまじで簡単になみだを流すのでおたくもたまにびっくりするけど、そういう気持ちの部分で絶対に手を抜かないのがすごく好きなんですよね。
それから今回のライブの新曲、13月は君の夢が本当に良くて。春組のこと大好きだけど、春組のみんなに送り出されて立つリーダーズのくくりもすごく好きなんですよね。2020年、本当に現場が少なかったけど、何もないときはずっとこの曲を聴いてフォーライに思いを馳せてた。この曲でコールができる世の中になるまで、よこたくんには春組リーダーとして舞台に立っていてほしいなあ。


ミュージカル アルジャーノンに花束を

脚本・演出:荻田浩一 原作:ダニエル・キイス
博品館劇場
「チャーリィには鬼気迫るものがあって、不思議とその姿は美しくさえあった」物語終盤に確かこんな台詞があったと思うんですが、まさにロングラン公演を出ずっぱりで演じ続ける矢田さん自身の姿をも言い表していたと思う。公演を重ねるほどにそういう凄みがどんどん増していて、だからこそ物語の結びに天使のような笑顔に辿り着くのに救われる気持ちになる。
本当に天使みたいな顔で笑うんですよね。矢田さん、くっきりした精悍なお顔立ちだけどいくつになっても美少年の輪郭をしていて、成人男性としてのかっこよさと美少年としての引力どちらも出してくる。そして矢田さんが美しかったからこそ成立した物語だったとも思う、良くも悪くも。
「星は消え灯台の灯も消えた」ストラウス博士のこの曲の場面が本当にどこをとってもはかなくて美しい。歌詞の情景が本当に美しいんですよね。暗い海の上で二人だけで小舟に乗っている、その舟の上でのみふたりのたましいは共鳴する。だけどじきに明るい港に着いて夢から覚めてしまう。そういうイメージ。人形のような美しい顔で眠るチャーリィに泣きそうな表情で寄り添うアリス。自分を傷つけた人たちのことを「弱い人たちだった」と述懐するチャーリィに「みんな弱い」と肯定するのが、ずっとチャーリィを支えてきたアリスなのがすごく良くて。それで観客としても腑に落ちるから。
2014年版を一度だけ観てたんですが、もうすごく良かったってこと以外あまり覚えてなくて、だからか今回の初日わりと初見のノリで新鮮に泣いていました。原作も読んだことないんですよね。読書感想文の課題図書の候補にあったんだけどあまりにもみんなが選んでたからやめた記憶がある。正直原作を読んでないからこそ気にならなかった部分はあったと思う。最後、みんなが大きな花束を持って出てくるシーンが本当に好きであそこでどうしてもなみだが出た。そういう、舞台が見せる絵を素直に受け取ることができたので。
正直、きれいごとだなと思ってしまう部分はあるんですよね。最後のアリスの「笑顔よ」のくだりも、あれはチャーリィ(というか矢田さん)がまだ若くて美しいから成り立つだけだよなとは思うので。まあでもわたしも美しい(しめちゃめちゃ歌がうまい)矢田さんを見にいっているので……。舞台の上だけを見ると本当に、いろんな感情が渦巻いているけどそれをすべて昇華してしまうくらい美しいんですよね。そういう舞台だと、わたしは思った。

あとなんか全公演お友だちと連番できたのがなんか楽しかったです。自分の現場はひとりのことが圧倒的に多いので……。アルジャーノンという作品、出演者のみなさん、そして主演矢田さんとすべてそろっていたから行こう!ってなったんですよね。なんとなく行きたいと思っていてもチケットを取るまではいかないことってけっこうあると思うんだけど、アルジャーノンはほんとすぐチケット取ったな。というか、自粛期間中の矢田さんのインスタライブがすごく良くて、そのままSUI入ったらお友だちもおんなじタイミングでおんなじことしてたという。SUIの会員番号連番だったのちょっとおもしろかった。

ミュージカル「グッドイブニングスクール」

脚本:小柳心 演出:原田優一 制作:マーベラス
@本多
この舞台はまず制作の姿勢や俳優への気持ちがすごくすてきだったから、もし舞台そのものがつまらなくても文句は言わないでおこうという気持ちで観に行きましたがめちゃめちゃ面白かったです。制作の姿勢ってきちんと作品に表れるものなんだなあって思えたことが嬉しかった。話題性とか売れるとかじゃなくて、ただただ面白いものを作りたい!という意思と、制作陣がきちんと俳優の個性を見極めて大事にしてくれること。2020年、この制作の作品で応援している俳優さんが主演だったって、それだけで500000000点満点。そうそう出会えるものじゃない。
同じ星空を見ても観客それぞれ違う星座を描いた物語だったなと思います。(夜間学校だけに)(?)観た人がよこたくんのファンかそうでないか、それからよこたくん本人のことをどう思っているかでお話の印象が違ったと思う。初日を見たときはストーリーは平凡だけど出演者と演出がいいという印象だったけど、見れば見るほど脚本含めた細部の作り込みのすごさに気づけた。
演出も物語の倫理観もめちゃめちゃノンストレス。ごちゃごちゃしているようで無駄なやりとりが少なくて、早口だとか展開が速いとかではなく集中を保ったままあっという間に終わる。頭の「あんたは簡単に死なねえだろ」「人間いつ死ぬかわからへんで」ってくだりも、何気ないやりとりのようで、奥さんを亡くした経験があって出てきた台詞だってあとからわかるんですよね。後ろの桜の木がいつの間にか緑になってることで時間経過を表してたりとか、あと愛称呼びを出すタイミングとかもすごく考えられてたと思います。あと若林先生がTikTokを見ながら寝落ちする流れが秀逸だなって。その前の山田おじいちゃんとのやりとり「若は休みの日何してるん?」「別に何もしてないです」これに対する答えになってるんですよね。SNSを眺めてるうちに休日終わってる、まあなんか私と一緒なんだなって……。冒頭にTikTokについての台詞があるけど、疲れていても寝る前についつい見るくらい習慣づいてるんだなと。
あと説明しすぎないでいえば、ミキちゃんの生い立ちについて「自分らしく生きたくて夜間に入った」って台詞くらいしか説明がないのがいいですよね。世代的になのかもしれないけどそれだけで十分伝わる。あとまじで何も説明なかったタイムリーパーの方……。脚本家が出演もするってなると自分で自分の見せ場を作ってしまう人もいるなかであの語らなさはえらかった。クラスメイトが彼のことを普通に認めることで流れが成立してるのがいい。なんか、ダイバーシティ。生徒のみなさん、何かしらの挫折を経ている人が多いけど、だからこそみんな個性に対して寛容だったのが若林先生と対照的で良かった。
脚本が平凡に見えるのは、ここまで拗らせてしまった人間が生徒からの動画ひとつで前を向けるか?というところだけど、まあそのあたりの若林先生のトラウマとそこから起因する価値観の歪みをきちんと描ききるにはどう頑張っても尺が足りないし作風もがらっと変わってしまうからこれでよかったと思う。あとはとにかく結びの台詞がよかったからそういう意味では納得できました。なんだろうな、すごく妥当だった。ふんわりしたきれいごとじゃなくて、こう若林先生みたいに頑張りすぎてしまう人をほっとさせてくれるような結びだったのがよかった。いやまあわたし自身はむしろ大して何も苦労はしてこなかった人間だからこそこう思うのかもしれないですが。
若林先生のキャラクター性について。開幕の前に「不器用だけど強い志を持って頑張る新任教師」と役について紹介されたときはなんとなくこれまで演じた役と似た系統なのかな……と思っていましたが蓋を開けたらまったくそんなことはなかった。「心底うんざりした」「他人を軽蔑した」そういうたぐいの表情が印象的でした。がむしゃらな頑張り屋さんだけど決して聖人じゃない。たくさん我慢して頑張っているけど過去のトラウマからしてることだからめちゃめちゃ情緒不安定だし、自分に我慢を強いているぶん他人にもそれを当てはめてしまう。初日1幕終わったあとのわたし「よこたくん本人が持つ人としてのかわいさがなければ成り立たない役」ってツイートしてたんですよ。実際よこたくんはお顔がとんでもなくかわいいのはもちろんのこと、それ以上に人間性起因のかわいさがとんでもないなと思っているので。若林先生のこと、愛すべきキャラクターと捉えるか問題のあるキャラクターだと捉えるかってわりと見ている人によって割れるところだと思う。なんだろうな、夜間クラスの生徒のことを見下してはいる、けどそういう相手に平気で弱みを見せるアンバランスさとか。まあ総じてこう、やべえやつは弱い人と言い換えられるので……かわいそうというか、こう、一度すべてを忘れて真っ白いトトロみたいな生き物のお腹のうえでゆっくりお昼寝してほしいみたいな……そういう感情になってた……(?)なんのはなし?
リアルではあるんですよね。自尊心の低さも、ただただ我慢すれば何かがあるって思ってしまうことも、自分が我慢しているから周りも我慢するべきって思ってしまうことも。夢ばかり育てすぎて「なんか思ってたのと違う……」ってなったときの動揺もすごくよくあることだと思う。
私は若林先生を演じるよこたくんを見ながら本当になんでこんなに容姿が美しいんだ……と思っているけど、それでいて「その美しさで学生時代いじめられたり挫折してこじらせるはずがない!」みたいなことを考える余地がなかったのはさすがでした。横田くんという俳優の肉体にだけ宿ったあのキャラクターだったと思う。

ところでよこたくんと若林先生とで一番似てるのは自分を普通の人だと本気で思ってるところな気がします。人間、完全にみんなと同じってのはありえないしみんな多かれ少なかれ自分のことちょっと変わってるって思ってるのが普通だと思うので……。
真田先生も、単に主人公の初恋相手のヒロインというにはちょっとズレてて、なんか進路迷うことなく教師になる子ってこんな感じだよなあっていう絶妙な空気の読めなさがリアルだった。すごくかわいいしいい子なんだけどなんか本当にズレてる……。諦めるは帝しか言っちゃいけないのくだり、HRで生徒に話して生徒がフーン……ってなってるところが容易に想像つく。黒沢ともよさん、横田くんと並んだ感じがすごくかわいいんですよね。2.5でもないのにやたらと大きいキャストが多くて横田くんがやたら小さく見える座組なので、頭身もサイズ感もここだけマッチする感じ。いやなんか、真田先生が若林先生を好きなのも若林先生が真田先生を好きなのも、キャラクター的に考えてうまくいく二人なのか?みたいなところはあるけど絵的には説得力しかないんですよね。
あと音楽がとにかく良かったですね。ハカをもじった「ワカ」、何回見ても笑った。くだらないのに歌う人が強すぎて声の圧がとんでもなくて笑うしかない。おモチの歌も中毒性がすごくて本当にしばらく耳から離れなかった。あと中井さんが歌う曲、力強い歌声でつむがれる歌詞がとにかく良くて、なんかこの物語から取り外して単にこの曲だけでもだいすきだって思えるくらいだった。この曲の歌詞もそうだけど、PATカンパニーの制作のみなさん感性が若いというかきちんとアップデートされているし本当に真摯さを感じる。だから今後推しがPATカンパニーの舞台に出るってなったみなさんは大いに期待を膨らませていいと思います。いやまあこのブログそもそも身内くらいしか読んでないんですけど。

こうしてブログ書いてると2020年、本当に現場数少なかったなあとしみじみします。9月から12月までで4タイトル、よくがまんできたなあ。やっぱ面白い舞台ばっかりだから数は少なくても大丈夫だったのかな🎶とかゆうてたら「いやあんた現場ない期間普通に情緒不安定だったよ」と言われ……なんか自分では自分のことはっぴーなおたくだと思ってたけど、普通にめちゃめちゃ情緒不安定なたちなのでは?と気づき始めている2021年です。どういうブログの締めなん。